イギリス・オペラの最初の大作は、1680年代のロンドンにある女子寄宿学校を舞台としている。パーセルはヴェネツィアおよびフランス・オペラの経験を極めて個人的な方法で再構築し、まったく新しい成果を生み出した。ナフム・テイトの台本はウェルギリウスを再解釈し、トロイを逃れるアエネアスとカルタゴの女王ディドの愛の物語に、魔女たちのグロテスクな介入を組み合わせている。アエネアスが使命を果たすために彼女を去ると、ディドは自ら命を絶ち、妹ベリンダに別れを告げる。その場面は音楽劇史の中でも最も感動的なページの一つとされている。イギリス・バロック劇の複雑な形式を現代的に再解釈するという困難な課題は、しばしば振付と演出の才能を併せ持つ芸術家に委ねられるが、本作ではマルコス・モラウがその任を担い、ピエルマリーニ劇場でのデビューを果たす。指揮はジャンルカ・カプアーノが務め、前古典期の音楽劇の変化に富んだ形式に卓越した適性を見せる。ディド役をエミリー・ダンジェロ、アエネアス役をアレッシオ・アルドゥイーニ、魔女役をカルロ・ヴィストーリが演じる。
構成・粗筋
序曲と3幕5場からなる。
トロイ戦争で祖国を失い、祖国再興の地たるイタリア(ローマ)を目指すトロイの王子エネアスは、旗艦の難破のために北アフリカのカルタゴに漂着する。祖国テュロスを追われ、カルタゴに新しく国を興したばかりの女王ディドはエネアスに同情するが、その同情がいつしか愛情へと変わる。
第1幕
序曲が終わり幕が開くと宮殿の中。
エネアスに対して自分の気持ちを打ち明けるかどうか迷うディドをベリンダ達が勇気づけているところへエネアスが登場し、逆に彼の方からディドへ愛をほのめかす。なおも躊躇うディドであったが、ついにはその愛を受け容れ、愛と美の勝利を喜び祝う人々の歌と踊りの中、幕が降りる。
第2幕
第1場
魔法使いの洞窟。
栄える者に禍を齎す(もたらす)ことを喜びとし、ディドの破滅を画策する魔法使いが手下の魔女を集め、彼女達にジュピターの使者である精霊(マーキュリー)に化け、エネアスにカルタゴからの出立を促すよう指示する。
第2場
森の中。
ディド達と狩りを楽しんでいた途中に嵐が襲い、狩りを中断したエネアスのもとに魔女の変装した精霊が訪れ、ジュピターの命と騙って彼にトロイ再興のために早くイタリアへ向かうよう告げる。自らの使命を思い出したエネアスは、苦悩の末にディドとの別れを決意する。
第3幕
第1場
船着き場。
出航の準備が整う船着き場に魔法使い達が現れ、恋人に捨てられるディドを嘲笑うとともに、出帆後のエネアスを嵐に遭わせることを企む。
第2場
宮殿の中。
エネアスとの別れを嘆くディドのもとにエネアスが現れ、事情を説明する。自分との別れを決めたエネアスをなじるディドに対し、このまま留まろうと翻意に傾くエネアスであったが、ディドは一旦は別離を決意したこと自体が許せないと彼を斥ける。エネアスが立ち去った後、ディドはベリンダに自ら命を断つことを告げ、彼女の腕の中で「わたしが地中に横たえられた時("When I am laid in earth")」(ディドのラメント)を歌いながら息絶え、彼女の墓を守るようにとのキューピッドへの祈りの合唱とともに幕が降りる。
なお、以上の粗筋についてはディードーも参照のこと。